幻聴
空耳

認知療法について

今回は、職場の同僚2人がヒソヒソ話をしているのを見てしまった状況を例にします。3人の異なった反応から認知療法を解説してみたいと思います。

A氏の場合─────

認知

同僚2人が話をしている。

思考

なにやらヒソヒソと面白そうなことを企んでいるようだ。私も話に加わりたい。

感情

ワクワクする。

行動

同僚2人に明るく話しかける。

B氏の場合─────

認知

同僚2人が話をしている。

思考

どうもヒソヒソと陰口を叩いているようだ。もしかしたら私のことかもしれない。言いたいことがあるなら直接言えばいいのに。

感情

イライラする。

行動

同僚2人に怒って話しかける。

C氏の場合─────

認知

同僚2人が話をしている。

思考

どうもヒソヒソと陰口を叩いているようだ。もしかしたら私のことかもしれない。嫌われていたらどうしよう。

感情

ドキドキする。

行動

同僚2人から離れる。

3人の違い

3人とも、同僚2人が話をしている全く同じ場面を見ています。しかし、A氏とB・C氏では思い浮かぶことが違います。A氏は「面白そうなことを企んでいそうだ」と考え、B・C氏は「私の陰口を叩いていそうだ」と考えます。そして、陰口を叩いていそうだと考えた後、B氏は「言いたいことがあるなら直接言えばいいのに」と考え、C氏は「嫌われていたらどうしよう」と考えます。すると、A氏はワクワクと楽しげな気持ちになり、明るく同僚2人に話しかけることができます。一方、B氏はイライラして同僚2人に何を話していたのか確認します。C氏は、自分が嫌われているんじゃないかと不安で同僚2人に話しかけることができません。

結果
A氏の場合─────
同僚2人は「協調性がない」とA氏の陰口を叩いていました。しかし、A氏が明るく話しかけてきたので、その日以来、A氏のことを誤解していたと3人は打ち解けることができました。
B氏の場合─────
同僚2人は「協調性がない」とB氏の陰口を叩いていたのですが、B氏が「言いたいことがあるなら直接言いなさいよ」と言ってきたので、2人とも日頃思っていることをB氏にぶつけてみました。B氏は落ち込みましたが、その日以来なるべく同僚に話しかけるようにすることで3人の仲は良くなっていきました。
C氏の場合─────
同僚2人は「協調性がない」とC氏の陰口を叩いていたのですが、C氏が近頃一層同僚達と話そうとはしないので、陰口はひどくなるばかりでした。

実際、A氏が考えていたことははずれで、B・C氏が考えていたことが当たりでした。しかし、結果が良さそうなのはA・B氏のようです。それぞれ振り返ってみましょう。

A氏について─────
同僚と打ち解けられたのは、たまたまポジティブに物事を捉える性格が功を奏しただけです。A氏は自分がどう見られているかに気がついておらず、下手をすれば空気が読めない人になりかねませんでした。

B氏について─────
B氏は勝気な性格でしたが、幸い指摘されたことから反省する力があり、自分の行動を変えることで同僚と良い関係を築けたようです。

C氏について─────
C氏は自分が嫌われているかもしれないと考えたにも関わらず、解決のための行動をとっていません。陰口がひどくなればなるほど解決は難しくなってしまいます。

認知療法の視点から
行動はたやすく感情に支配されてしまうので、行動だけ変えるということは大変難しいものです。では、感情は変えることができるでしょうか。B氏とC氏の思考に注目してみましょう。

B氏もC氏も途中までは同じですが、後半が「直接言えばいいのに」と「嫌われていたらどうしよう」と異なっています。頭の中で考えることの違いが感情に現れるわけですね。つまり、思考を変えれば感情が変わり、行動も変わっていくというのが認知療法の基本的な考え方なのです。

認知療法では、そのように自然と頭の中で文章化される思考を「自動思考」と呼んでいます。認知療法ではそれを自覚してもらうことがスタートになります。また、自動思考は「スキーマ」と言われる根源的な「心のクセ」によって思い浮かびやすいものがあり、認知療法ではスキーマにも気づいていくことが重要になっていきます。例えば、B氏は「隠し事をしてはいけない」というスキーマを持っていて、「直接言えばいいのに」という自動思考が浮かびやすいのかもしれませんし、C氏は「私は人に好かれない」というスキーマを持っていて、「嫌われているかもしれない」といった自動思考が浮かびやすいのかもしれないのです。

さぁ、カウンセラーと一緒に自分の心のクセに気づき、こじれた人間関係のパターンから抜け出しましょう。皆さまの来所をお待ちしております。

連絡先:03-6677-6431