うつは心の病か?それとも脳の病か?

「うつは心の風邪」(厚生労働省)というのであれば、うつは心の病なのでしょう。

 

また、セレトニンなどの脳内物質の異常がうつを引き起こすというのであれば、これは脳の病気ということになります。

 

通常医師は、脳の病気であると捉えて「薬を処方」します。しかし、うつを治す薬は、現在のところ存在しません。異常行動や痛み、苦しみを減退させる薬や、熟睡に導く薬はありますが、直接治療に結びつく薬は無いのです。

 

思考能力減退などがうつ症状に処方される薬には付きまといます。それは、基本的にうつに用いられる薬が、集中ではなく拡散、思考ではなく忘却、行動ではなく緩慢といったように現実世界との対峙を薄め、そらせる方向に働く物質で構成されているからです。

 

これは、異常行動を起こしかねない時期には有効なので、私の場合も薬の処方をお勧めしますが、過剰な投与が継続的につづけられている場合には、自分なりに警告を発してきました。特に同じ効力を持つ薬の重複投与などは、危険だからです。

 

精神疾患に用いられる薬には覚せい剤と同じ組成のものが少なからず含まれていますので、注意して用いないと「依存症」になりかねません。また、この薬が原因での異常行動も多数報告されておりますので、本当に注意して服用し、細心の経過観察が必要です。

 

うつは、確かに脳の異常を数値的に示すことがありますが、そこだけの対策で寛解(かんかい・治癒)することはないように思います。やはり「うつは、心の病である」という立場からの対策は、欠かせないと経験上思わされています。

 

怒り、喪失感、悲しみなどに耐えられなくなった心が、世界からの逃亡、関心の急激な低下などを「自己の大切な心」を守るために閉ざされていった状態が、「うつ」という状態であると私は考えています。

 

うつが、心の状態であるならば、やはり心への対策を忘れるわけにはいきません。

では、心への対策とは何でしょうか?

 

それは、いろいろな意見もあるかもしれませんが、ここで敢えて一言で表すならそれは「慰め」だと考えます。

 

「慰め」が、うつを最終的に寛解させる欠かすことのできない要素であることを、私はカウンセラーとしての体験から感じております。「慰めさがしこそが、私のカウンセリングの基本姿勢であった」と、極論すれば言えると思います。

 

こうした私のカウンセラーの姿勢が養われたのは、大学院時代に訓練を受けた京都の病院で、いつも末期がんの患者さんのカウンセリングを担当してきたからだと思います。

 

慰めを拒否する段階から、やがて慰めを見出そうとしていく段階へ、そして自分の慰めを見つけるようになると、心の平穏がやってきます。何度も行きつ戻りつを繰り返しますが、心の平安はそんな中で獲得されていくのを何度も確認いたしました。

 

うつとはそういうわけで、心の病であり、そして脳に異常をきたすほどに強い作用をもたらす病であるということです。なので、やはりその両方からの対策を必要とするものであるということをお知らせいたします。