うつと製薬会社と医師会と・・・

さて、3月は年度末ということとなり、リストラや派遣契約の終了のために失業者が増え、自殺者が増加することが予想されるということで、内閣府も、緊急対策を呼び掛けていました。おそらくこのような動きを受けたのでしょう、医学雑誌では、うつ、自殺の特集がなされています。

日本医師会の会員の雑誌である日本医師会雑誌では、「働く人のうつ病」が特集となり、座談会や論文が掲載されています。精神科治療学という雑誌では、「自殺-精神科医としてなにができるか」という特集が組まれ、統合失調症、摂食障害、パーソナリティー障害、アルコール依存症、薬物依存症等々とそれぞれの場合と自殺の症例を紹介しながら検討が加えられています。

抗うつ薬の市場は、1999年は、150億円だったそうです。ところが現在、1000億円となったそうです。しかし座談会の医師は、6倍超も、うつ病患者が増えているわけではないと発言しています。もう少し記事を読み進めてゆくと、結局、うつ病の診断基準が変更となり、いくつかの症状が継続することでうつ病と診断するとなったため、これまでの診断体系ではうつ病とされていなかったものが、うつということになっていたこと、(新型うつと呼ばれる)が、増加原因だとされていました。

薬品メーカーが、抗うつ薬を販売する戦略として、「うつは、心の風邪」という標語のもとにうつは、一般的な病気であり、投薬で治癒するという形で、抗うつ剤の販路を拡大していった。そのような風潮を受けて、うつに対する偏見が減少したことは良いとしても、自分はうつであるという若者が増加したという背景があるようです。

そして、医師会雑誌でも、精神科治療学で繰り返し指摘されていることは、新型うつには、SSRIは効果が無く、むしろパーソナリティー障害等の場合は、攻撃的行動に出る場合がある(アクティベーションシンドローム)ということでした。あるいは、思春期の年齢で投薬されると自殺リスクが高まる(これは薬の注意書きに記載)副作用があるということ、そして薬の出し方には、患者の症状に合わせて細心の注意と検証が必要であることでした。しかし、それにもかかわらずSSRI等が精神科医ではなく、かかりつけ医でも出されている。これらのことが重なって、抗うつ薬の市場が拡大したのです。

そうであれば、副作用しかなく、効果の無い薬を非専門医が大量に処方しているということになるのです。どうしてだれも止めないのでしょうか。精神科治療学では、現在の自殺対策バブルは、このような動きの結晶のように、うつは心の風邪というベタなキャッチフレーズのもと、うつ経験芸能人を読んできて、うつ病に特化したキャンペーンをしていると批判しているのです。

平成10年から自殺が増えるのは、経済的事情などからストレッサーが過酷となり、ストレスが増加したためだ。ストレスによって発症するのは心因性うつ病だ、
だから、自殺対策は、うつ病対策が第1だ。うつは、脳内のセロドニンなどのホルモンが減少するために症状が出る。だからセロドニンを減少させない薬を使えば
治療もできる。うつとは、そんな心の風邪である。どんどん薬で治してしまいましょうというわけです。

政府主導の自殺対策は、うつ病の早期発見、早期治療啓発活動だと、そう考えていました。考えていましたといいましたが、現状で早期発見、早期治療は正しいし、それがうつ病で無くても、何らかの精神疾患であれば、精神科医につなぐことは、正しいことだと思われます。

問題は、そのつないだ後ということになります。おそらく精神科治療学も、現在のうつ病キャンペーンのすべてを否定しているというよりも、そこから先が大変なんだということをおっしゃりたいのではないかと・・・。現場の医師は、大変な思いをしているということを理解してもらいたいのだと思います。