うつ病に関する思い込み(実際にうつ病を経験した男性の手記)

 

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 カナダ人のマーク・ヒルは、2年前にうつ病と診断された。自分がうつになってはじめて、この病気に対する間違った思い込みに気が付いたという。

 そこでマークは、これまで心の病を経験したことのない人が、身内や友人のうつ状態を見抜く為の手助けとして、また、実際にうつ病の人がそのことで自分を傷つけない為にと、マーク自身が感じたうつに関する間違った思い込みを5つにまとめたそうだ。

 

 

 以下はマークが書いた文章を抄訳したものである。

うつ病にかかるといつもみじめで孤独に感じる

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 うつになったからと言っていつもいつも暗く絶望しているわけではない。人々が友人のうつに気付くのが難しいという1つの理由の1つがこれだ。

 うつ病の人は他人と一緒に居ると気分が良い時がよくある。なぜなら見知らぬ人と交流することで、自分の人生の問題はいったんは心の奥底に隠れてしまうか らだ。しかし一人になると、一気にうつ状態が襲ってくる。だから友人はその状態を知らないし、そのことを他人に話す気もない。なぜなら彼らに話したところ で何も得られるものはないからだ。

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 逆に、一人でいると楽だが人と一緒にいると辛い時がある。気分は常にランダムで、まるで脳が感情のルーレットを回してるみたいだ。しかしそのことを他人に話しても理解は得られない。

 治療を受けていても100%完璧にはなれない。例えば僕は、土曜日の朝、元気に起きる時もある。でも別の日はずっと寝ている。1日中オレオを食べては自慰にふけった時もある。

 要するに、一度うつになってしまうと、それ以降はずっとその脳内で人生のコントロールをめぐって戦い続けているのだ。もちろん戦いに勝って、これらのくだらない日々を覆すことができるが、常に戦いが起きていることを認識する必要がある。

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 戦いに勝ったとか、戦いなんてなかったんだと思ってはいけない。残りの人生すべてで戦わなければいけないのだ。つまり、うつ病は、基本的に病気のウォー ハンマー(中世の幻想的世界を舞台にした卓上戦闘ゲーム。プレーヤーが自分でプラモデルのキャラクターを製作し、それを動かし試合をする。)だと考えるべ きである。

うつの時は悲しいだけ

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 誰かがうつだと聞いたら、あなたはその人は悲しいんだろうと思うだろう。だが、うつ病の時はただ悲しいだけではない。

 中には人を怒らせてばかりの人もいる。他人を貶め、自分を優位に立たせるのは、自分を気持ち良くする方法の1つだからだ。これは特に問題が多い。なぜなら友人や家族は手を噛むような人間には中々手を差し伸べにくいからだ。

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 また、眠れないという人もいるし、寝すぎるという人もいる。不眠でも寝すぎでも、それがもっと大きな問題のごく小さな一部分にすぎないということを最初は見抜けない。僕は何ヶ月も週末には正午まで寝ていた。

 体重もすごく減った。調子の悪い日にはブルーベリーとチェリオスを数掴み食べることで十分だったからだ。冗談抜きで実際にそうしてた。そしてホテルで一晩中ダニに悩まされてるみたいに落ち着きなく過ごしていた。

 僕はそんな感じだったが、他の人は、物事が記憶できなくなったとか、体重が維持できないとか、記憶力が悪くなったりとかしたらしい。「寝て起きて食べる」という人としてあたりまえの日常のタスクを遂行するだけのモチベーションがなくなるのだ。

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 さらには性欲減退だ。とにかく人間の基本的欲求がなくなっていくのだ。ただしまったく逆のケースもある。ある研究では、うつの女性は健常時よりも性欲が増す人もいるという。なぜなら彼女たちは絶頂の悦びをうつの症状の緩和に使うからだそうだ。

抗うつ剤は効かない

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 抗うつ剤が効かないだのあれは詐欺だの、依存性が強いだの、昔はそんなのなかっただの、あらゆるメディアで報じられているので皆そうだと思い込んでいるかもしれない。映画にさえなっている位だ。

 診断技術が向上したため、うつ病と診断される人のの割合は上がってきている。これはうつ病だけに限らず、メンタルに病気を抱えた人全体についても言えることだ。

 確かにいくつかのケースでは抗うつ剤が効かないことがある。人間の脳は非常に複雑で、解明されていない脳の仕組みがある為、同じ処方が皆に効果的なわけではない。

 しかしある人達にとっては抗うつ剤は圧倒的に効果的で、その替わりとなるものが他にない位なのだ。抗うつ剤が効かないから使わないという意見は、ガンのスクリーニング検査が100%正確ではないからガンの検査を受けないというのと同じである。

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 抗うつ剤については何度も議論されているがあまり理解されていない。人々は抗うつ剤がどんな役割を果たすのかをわかっていない。抗うつ剤は、ここぞとい う時に都合良く問題を全て解決してしまう魔法のような薬ではない。抗うつ剤の服用は多角的な治療過程の1つであり、どの薬が良いのか、どれ位飲めば良いか を数カ月の試行錯誤を経て探っていくのだ。

 抗うつ剤に反対の人たちは、結果が出ないから4か月経ったら半数が飲むのを辞めようとするというが、確かに、薬が効いているかがわかるのに6週間かかる し、処方箋通りの正しい効果が出てくるのに何か月かかるかわからない。だがメンタルな病は短期間では治らないものなのだ。

 抗うつ剤は、あなたの問題を全て解決する薬ではなく、あなたを「打ちのめされた感じ」から救う薬であり、それにより、あなたは問題を自力で解決することができるようになるのだ。

さっさと立ち直らせればいい

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 「うつは甘え、仮病の一種。心の弱さがそうさせている。だから自分で立ち直れるはずだ。」という風潮が世界でまだ根強く支持されている。しかしこの考え方は危険なぐらい間違っている。

 人生の質は、「想像力」と「自己実現」できまる。その2つがうまく回れば人生を楽しくすることができる。逆に悪く回れば、人生やキャリアにダメージを与え、自殺率をあげてしまう。つまり2択なのだ。

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 銃乱射事件でアメリカの精神保健システムを非難する人がいる。精神保健システムは精神疾患者に情状酌量の余地を与えるというものだが、彼らは決まってこ う言う。「うつ病を演じているだけだ。責任能力は十分にある。」、「もしうつが本当なら、うつ病患者はみんな犯罪予備軍である。」 とかく心の病気を持つ 人は嘘つき呼ばわりされたり、時限爆弾扱いされる。

 とかく心の病気は酷く間違った烙印を押されがちだ。その為病気になった自分自身を恥じている人も居る。だから、あなたがもしもうつの人に「立ち直れ」と 言いたくなったら、言わずに想像してみてほしい。もしも、手足が使えない人や、冗談みたいに体の一部分が大きくて人生に支障をきたしてる人たちに、そのこ とを言ったら何が起きるのか、ということを。
 

女性と老人ほどうつになりやすい

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 女性が男性の倍の率でうつ病として診断されるのは事実である。しかし、これは男性の方がうつになりにくいというわけではなく、女性の方が、気軽に病院に いけるからだ。男性はなかなか他人に助けを求められないものだ。男らしい男は、女みたいに弱虫で感情的な問題に苦しんだりしないという社会的風潮もある。 自分の気分について語るのは女だけだ。

 大抵の女性は治療とサポートを受けるが、男性はこれらの問題を薬物乱用や、暴力や自殺で解決しようとしてしまう。ただし正確な統計をとるのは難しいが、女性はうつの影響を受けやすいのはかなりありうる話だ。

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 しかし年頃の子は治療を受けるのをためらう。治療にたどり着くまでに多くの障害があると勝手に思い込んでいるからだ深刻に受け取ってもらえないと心配し ていたり、ネットでエモ(悲しく暗いオルタネイティブソングを聴き、全身黒ずくめの洋服を着て、目の周りを黒く塗っている不健康そうな10代を指して使う 表現。)と呼ばれることを恐れたり、両親にそのことを言いたくないのだと思う。それか、彼ら自身の脳が「そんな面倒なことはしなくていいよ」と語りかけて いるのかもしれない。多くは、これが人生ではじめての経験のはずだ。