「うつ」と「自殺」の相関関係にショック!!

厚労省の狙いは激増するうつ病に対して「ストレス診断」を判断材料に予防措置を講じ、社会的損失及び自殺者数を抑制しようとするもので、その原型は厚労省社会援護局の地域・職域連携関係者会議が平成23年2月24日に提出した報告書にみられる。 

同報告書では「救急病院に搬送された自殺企図者の75%に狭義の精神障害があった」とし、「地域における自殺企図者の少なくとも95%に広義の精神障害が認められ、そのうち約半数がうつ病関連であると推測できる。」という仮説を立てている。

そして、この仮説から「うつ病患者が急増中にもかかわらず、その4人に3人は医療機関で治療を受けていない。」という現状批判を導いている。 

うつ病患者は1998年の20万7000人から2008年には70万4000人に急増しているが、同報告書では潜在患者数は250万人を超えているとしている。 

厚労省の作業部会が出している推測値は世界精神衛生保険調査のデータ解析から採用されたもので、一見正当性が担保されているように見えるが、最も根源的なところで錯誤している。 

最も大きな錯誤は、精神医学は依拠する科学的根拠の範囲を明確に規定できない、という弱点をハナから議論していないという点である。 

言い換えれば、精神医学による治療は人間の行動や感情、思考、感覚が脳内の物理的なレベルで決定されるという前提で成り立っており、それが限定的な仮説であるかもしれない、という反論は封じられている点である。 

限定的な仮説をあらゆる事象に当てはめると、どういうことが起きるのか? 

データで見てみる。 

精神科医の数は1998年から2008年にかけて、1425人から5629人に増えている。

向精神薬の市場規模は1998年から2008年にかけて、1667億円から3899億円に増えている。

一方、自殺者数は1998年から2008年にかけて、3万2863人から3万2249人とほぼ同水準にとどまっている。 

精神科医による薬物治療と自殺者数の間に相関関係がみられるとは思えない。

 むしろ、当たらない仮説を無闇に打ちっ放して(保険請求して)患者を製造しているのではないか、という疑いの方が強く感じられる。 

根拠のない疑いではない。 

抗うつ剤が日本で爆発的に売れるようになったのは、新型抗うつ剤SSRIが本格的に上陸し始めた2000年以降で、それまで170億円程度だった市場は2007年には900億円を超える市場に成長している。

 特に2000年に販売を始めたパキシルはその嚆矢となった薬剤だが、販売元のグラクソ・スミス・クライン社(以下GSK)の日本でのマーケティング戦略が近頃発売された「クレイジー・ライク・アメリカ」(紀伊國屋書店)という本で明らかにされており、衝撃的な内容だ。 

同社のマーケティングはそれまで精神的苦悩をヘルスケア(医療)の問題とされていなかった国に、どうやって根付かせるか、というところから始まる。 

アメリカで承認されて12年にもなるSSRI「プロザック」を販売していたイーライ・リリィ社が1990年代に日本への進出をあきらめているが、その理由は広報がWSJに語った通り、「日本人のうつ病観が欧米人のそれとは根本的に異なるために、日本にはこの病気に関わる薬を望む患者はそう多くないだろう。」といったものだった。 

リリィの見立ては誤っていた。
というより、もっと徹底的にすべきだった。 

GSKは文字通りこの新しい市場を掘り起こした。

 「クレイジー・ライク・アメリカ」の「メガ・マーケット化する日本のうつ病」の章の紙数の大半は、2000年に京都で行われた世界の精神医学界の重鎮と日本の精神医療関係者を集めた大接待会議の描写に費やされている。

 招待された精神科医学博士、カナダのマギル大学のローレンス・カーマイヤーの回想と議事録からあぶりだされるこの会議の内容はとても興味深い。

 GSKの戦略はとても周到で理にかなっている。 

まず、一般的な日本人の抑うつに対する認識に深く精通する必要があるので、日本人の自殺の一般例やうつを表現する言葉づかい、その「説明モデル」を検討する。 

次に、日本の精神医学界の当時の状況、重篤な精神疾患しか診療対象になっていない状況に対してうつ病の診断マニュアル(DSM)を積極的に導入することで、気分障害関連への関心を引き寄せる。 

最後に販売促進。 

うつ病が一般的で当たり前な疾患であるというイメージを広めるために有名な女優を配した広告に注力し、「うつは心の風邪」という表現を多用することで、受診の敷居を低くする。 

この会議での発言をいくつか拾うと、今の日本の精神医療の現状に当てはまるのでなかなか恐ろしい。

 「かかりつけ医でも3分で精神疾患を診断できる自己評定尺度を用いるべきだ。」
「うつ病の基準に沿わない患者でも、ある種の疾患を検討すべきだ。」
「仕事や工業化に伴う社会的ストレスが、SSRIで治療すべきうつ病のサインであることを日本人が理解できるように手を貸すべきだ。」 

3番目の発言はそのまま、今国会で厚労省が提出する「ストレス診断テストの義務化」に対応している。 

こうしてみると、厚労省がいう「ストレス診断」でうつ病を早期発見し、治療すれば、自殺者が減る、という根拠はかなり薄い。 

そもそも「うつ病は心の風邪」キャンペーンをしていた製薬メーカーがしばらくしてから、うつ病と自殺の関連性を証明する研究に莫大な資金を投じて、「自殺者の90%が何らかの精神疾患に苦しみ、70%がうつ病に起因していると考えられる。」(うつ・気分障害協会「ジャパンタイムズ」05年7月10日)などと宣言するのは、自己矛盾ではあるまいか。 

精神医療の科学的根拠のあいまいさについては多くの資料・研究があるが、わかりやすい例を挙げる。 

有力学術誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」で20年間編集部で勤めたジャーナリストのマーシャ・エンジェルが精神医療研究について、「公表された臨床研究の多くがまるで信用ならないうえに、医師や医学的ガイドラインに頼ることもできない。」とし、ゴーストライターの存在や製薬会社から研究者へのリベートの問題がこの業界では顕著である、と書いた。

 これに反論した米国精神医学会会長のナダ・ストットランドは
「現実には誰もがやっている活動に対して医者だけが堕落しているとみなすのは不公平だ。」と言っている。 

また、精神医療界の権威であるジェームズ・C・バレンジャーは上述したGSKの京都会議でこう発言している。

 「私はもう何年も前にこの問題にはケリをつけましたよ。製薬会社はいずれにせよ薬を売り込み、ガイドラインを作成しようとするわけで、そのために博識で科学に造詣が深く善良な人々を投入することができるし、そうでない人も使うことができるのです。」 

先ごろ、日本ではノバルティス・ファーマ社が薬事法違反(誇大広告)で家宅捜索を受けた。
対象とされた薬剤の脳卒中や狭心症の予防効果に関してデータ改ざんがあったということだが、この薬剤の主作用たる降圧効果には議論の余地はない。 

翻って、「脳内の神経伝達物質の濃度バランスを失った結果、うつ病になる。」というモノアミン仮説が薬物治療の根拠となっている精神医療は、いくつかの面で致命的、根本的に正確性を欠いている。 

まず、うつ病というターゲットが明示できない点。 

例えば、高血圧治療では適性な血圧を設定して、その数字を下回る薬剤の投入が推奨されるが、うつ病という現象は客観的なモノ(例えば、血糖値や炎症レベル)で数値化できない以上、ターゲットを恣意的に設定せざるを得ない。
(抗うつ剤の研究論文を批判して、ダーツを投げてから的を置くやり方、と表現されることがある。)

 次に、神経伝達物質(例セロトニン)とうつ病の因果関係を証明することは出来ない点。 

うつ病がセロトニンの不足によって引き起こされるという考えは、1950年代に自殺者の脳と、うつ病患者の髄液中にセロトニン濃度の低下がみられることを発見したジョージ・アシュクロフトによって初めて提唱されたが、その後のより感度の高い測定で結果が否定されている。 

アシュクロフト自身も1970年代には自説を撤回し、セロトニンレベルの低下とうつ病は無関係だと公に認めた。 
というか、大本のアメリカ精神医学会でさえ、「追加検証により、モノアミン仮説は裏付けられていない。」と宣言している。(「Textbook of Clinical Phychiatry」より) 

アメリカ食品医薬局(FDA)の精神薬理学諮問委員会会長のウェイン・グッドマンが精神医療の化学的不均衡説を「有用な隠喩」(2005 11月号 New Scientist)と絶妙な言い回しで製薬業界に配慮したのは、政治的な思惑が働いたのだろう。 

結論から言うと、うつ病など軽度な精神疾患を医学の立場からだけで判断し、治療することは不可能、というよりその正しさを証明できない。 

従って、冒頭で挙げた「ストレス診断テスト」によるストレスフリーな生活確保、なんてのは医学や厚労省が提供できるようなものではない。 

むしろ、産業医(がつくる支援グループ)を経営陣がうまく使って、雇用の調整弁にする(不要な人材をうつ病とする)方面にインセンティブを与えたり、あるいは、産業医(がつくる支援グループ)と昵懇になった不良サラリーマンが単なる怠けをうつ病にしてしまうインセンティブを与える恐れが大いにある。

 業界の権威の言うことを真に受け、より広範な科学的根拠を研究せずに散々な結果に終わった「メタボ診断」の轍をまた厚労省は踏むのではないか。

 てか、余程ヒマなのか?

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コメント: 1
  • #1

    sex telefony (金曜日, 03 11月 2017 20:22)

    nieborowany